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015 壊れた藤原

last update publish date: 2026-03-10 11:01:50

銃を構えた藤原が、部屋に足を踏み入れたその時だった。

「藤原、目えつむれっ! やっぱしやつはゴーゴンの力を持っとった! 顔見たら石にされてまうぞっ!」

健太郎が大声で叫んだ。

「……分かった」

藤原が静かにうなずき目をつむり、安眠マスクをしようとした。

その時だった。

「藤原君! 心配しなくていいよ! 君に危害を加える様な事は絶対にしない! する訳ないじゃない! さあ、目を開けて!」

雄介の狂喜する声が響いた。

「何を! 騙されるかえっ!」

「……大丈夫、僕は顔にレースをかけます。そうすれば石になる事はありません。健太郎さんも大丈夫ですよ、マスクを取ってください」

藤原が恐る恐る、ゆっくりと目を開けた。

すると雄介の言う通り、彼は顔に黒いレースをかけていた。

頭にはシュルシュルと蛇が動いているのが見える。

「おい健、大丈夫や。お前も目ぇ開けろ」

藤原の声に、健太郎も安眠マスクをゆっくり外した。

「……」

藤原には、所狭しと張られている自分の写真、散乱しているコードや倒れている涼子の姿は見えなかった。

彼の目に映ったもの。それはその場に転がっている、坂口の無残な生首だった。

「坂口さんも……やられたんか……」

「お、おうっ……」

突然の藤原の問いに、健太郎が目を泳がせながら答えた。

「や、やつの……ゴホンッ、やつの力はとんでもないもんやった……あっちゅう間、ほんまにあっちゅう間やった……あっちゅう間に、坂口さんはやられた……」

「そうか……そやけど健、何でお前の持っとる鉈が、そない血まみれになっとるんや」

「そ……」

健太郎の顔がひきつった。

「健、まさかお前……」

藤原がゆっくりと、健太郎に鋭い視線を向けた。

(……何か……何かええ言い訳はでけんのか……まさか俺が殺したとは言えんし……お、おえ藤原、その目やめてくれ……)

健太郎の頬に冷や汗が流れた。

その時だった。

「健、お前……あいつに意識、乗っ取られたんか」

ナイスナイスナイス! それや! それや!

「あ、ああ、そや……お、俺が坂口さんの首を落としたんや……自分の意志ではどないもならんかった……藤原、俺を殴ってくれっ! 坂口さんを殺したんは俺や! なんぼ意識を乗っ取られたとは言え、この手で俺がやった事に変わりはない! 藤原、頼むっ!」

健太郎が瞳をうるうるさせて吠える。

その健太郎に向かい、藤原が一喝した。

「健っ!」

その声に、健太郎が口を閉ざした。

「お前のせいやない……気にすんな。気にすんな、健」

「ふ……藤原……」

「健。二人で坂口さんの冥福、祈ろやないか」

「あ、ああ……」

ジョオオオオオオオオッ!

二人がズボンのチャックを開け、坂口の生首に小便をかける。

「坂口さん、往生してくれやっ!」

「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」

その光景を呆然と見ていた雄介が、ポツリと言った。

「あ、あなたたちは一体、何をしてるんですか……」

「見て分からんのかっ! 坂口さんの冥福を祈っとるんやないかっ!」

「め、冥福……」

そして最後の一滴まで丁寧にかけ終えると、二人は揃ってチャックを閉めた。

「さて……お前がこの大阪を滅茶苦茶にした黒幕やな、会いたかったぞ……」

藤原がゆっくりと雄介に視線を移す。

「正体は分かっとるんじゃぞ中村! 一体何のつもりじゃいっ!」

藤原が絶対的な確信の下、大声で怒鳴った。

健太郎が頭を抱える。

しばらく唖然としていた雄介の肩が、小刻みに震えた。

「ち、違いますよ藤原君……僕は中村君じゃありません……」

「へ」

雄介の言葉に、藤原が気の抜けた声を出した。

「ちゃ、ちゃう……中村とちゃうやと……ほんだら誰なんや、お前……」

藤原が眉間に皺を寄せて考える。

そしてしばらくしてはっとすると、ポンと手を叩き人差し指を雄介に向け、これ以上にないドヤ顔で吠えた。

「分かった、石川やなっ! おんどれ、ええ加減にせえよっ!」

「……ち、ちがう……」

「な……い、石川ともちゃうやと……ほんだらお前、誰なんじゃい……」

藤原が両手で耳を塞いだ。

「は、はあああああっ……」

その姿はあのムンクの名画、「叫び」の様であった。

「分からん……分からん分からん分からん……」

健太郎が藤原の肩を叩く。

「おえ藤原、ちゃうって……ボケは二回ぐらいにしとけ……あいつは岩崎雄介や」

「……」

藤原がムンク状態のまま固まった。

「おえ藤原、聞いとるんか。あいつは岩崎雄介や」

「……」

「藤原っ!」

「へ」

「あいつは岩崎雄介やっちゅうとるんや! 中村でも石川でもない!」

「……」

「分かったか! い・わ・さ・き・ゆ・う・す・け・やっ!」

「いわちゃきゆーちゅけ?」

「そや!」

「だれ? その人」

「こ・い・つ・や!」

「このひと、いわちゃきゆーちゅけってゆうの?」

「そや!」

「……」

藤原が何やらぶつぶつとつぶやきだした。

「えーっと、このひとがいわちゃきゆーちゅけちゃん。このおにいちゃんがやまもとけんたろーくんで、このくびがさかぐちさん!」

キラキラ瞳を輝かせ、ぶつぶつ独り言を続ける藤原を見ながら、健太郎と雄介が頭を抱えた。

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