Se connecter銃を構えた藤原が、部屋に足を踏み入れたその時だった。
「藤原、目えつむれっ! やっぱしやつはゴーゴンの力を持っとった! 顔見たら石にされてまうぞっ!」
健太郎が大声で叫んだ。
「……分かった」
藤原が静かにうなずき目をつむり、安眠マスクをしようとした。
その時だった。
「藤原君! 心配しなくていいよ! 君に危害を加える様な事は絶対にしない! する訳ないじゃない! さあ、目を開けて!」
雄介の狂喜する声が響いた。
「何を! 騙されるかえっ!」
「……大丈夫、僕は顔にレースをかけます。そうすれば石になる事はありません。健太郎さんも大丈夫ですよ、マスクを取ってください」
藤原が恐る恐る、ゆっくりと目を開けた。
すると雄介の言う通り、彼は顔に黒いレースをかけていた。
頭にはシュルシュルと蛇が動いているのが見える。
「おい健、大丈夫や。お前も目ぇ開けろ」
藤原の声に、健太郎も安眠マスクをゆっくり外した。
「……」
藤原には、所狭しと張られている自分の写真、散乱しているコードや倒れている涼子の姿は見えなかった。
彼の目に映ったもの。それはその場に転がっている、坂口の無残な生首だった。
「坂口さんも……やられたんか……」
「お、おうっ……」
突然の藤原の問いに、健太郎が目を泳がせながら答えた。
「や、やつの……ゴホンッ、やつの力はとんでもないもんやった……あっちゅう間、ほんまにあっちゅう間やった……あっちゅう間に、坂口さんはやられた……」
「そうか……そやけど健、何でお前の持っとる鉈が、そない血まみれになっとるんや」
「そ……」
健太郎の顔がひきつった。
「健、まさかお前……」
藤原がゆっくりと、健太郎に鋭い視線を向けた。
(……何か……何かええ言い訳はでけんのか……まさか俺が殺したとは言えんし……お、おえ藤原、その目やめてくれ……)
健太郎の頬に冷や汗が流れた。
その時だった。
「健、お前……あいつに意識、乗っ取られたんか」
ナイスナイスナイス! それや! それや!
「あ、ああ、そや……お、俺が坂口さんの首を落としたんや……自分の意志ではどないもならんかった……藤原、俺を殴ってくれっ! 坂口さんを殺したんは俺や! なんぼ意識を乗っ取られたとは言え、この手で俺がやった事に変わりはない! 藤原、頼むっ!」
健太郎が瞳をうるうるさせて吠える。
その健太郎に向かい、藤原が一喝した。
「健っ!」
その声に、健太郎が口を閉ざした。
「お前のせいやない……気にすんな。気にすんな、健」
「ふ……藤原……」
「健。二人で坂口さんの冥福、祈ろやないか」
「あ、ああ……」
ジョオオオオオオオオッ!
二人がズボンのチャックを開け、坂口の生首に小便をかける。
「坂口さん、往生してくれやっ!」
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」
その光景を呆然と見ていた雄介が、ポツリと言った。
「あ、あなたたちは一体、何をしてるんですか……」
「見て分からんのかっ! 坂口さんの冥福を祈っとるんやないかっ!」
「め、冥福……」
そして最後の一滴まで丁寧にかけ終えると、二人は揃ってチャックを閉めた。
「さて……お前がこの大阪を滅茶苦茶にした黒幕やな、会いたかったぞ……」
藤原がゆっくりと雄介に視線を移す。
「正体は分かっとるんじゃぞ中村! 一体何のつもりじゃいっ!」
藤原が絶対的な確信の下、大声で怒鳴った。
健太郎が頭を抱える。
しばらく唖然としていた雄介の肩が、小刻みに震えた。
「ち、違いますよ藤原君……僕は中村君じゃありません……」
「へ」
雄介の言葉に、藤原が気の抜けた声を出した。
「ちゃ、ちゃう……中村とちゃうやと……ほんだら誰なんや、お前……」
藤原が眉間に皺を寄せて考える。
そしてしばらくしてはっとすると、ポンと手を叩き人差し指を雄介に向け、これ以上にないドヤ顔で吠えた。
「分かった、石川やなっ! おんどれ、ええ加減にせえよっ!」
「……ち、ちがう……」
「な……い、石川ともちゃうやと……ほんだらお前、誰なんじゃい……」
藤原が両手で耳を塞いだ。
「は、はあああああっ……」
その姿はあのムンクの名画、「叫び」の様であった。
「分からん……分からん分からん分からん……」
健太郎が藤原の肩を叩く。
「おえ藤原、ちゃうって……ボケは二回ぐらいにしとけ……あいつは岩崎雄介や」
「……」
藤原がムンク状態のまま固まった。
「おえ藤原、聞いとるんか。あいつは岩崎雄介や」
「……」
「藤原っ!」
「へ」
「あいつは岩崎雄介やっちゅうとるんや! 中村でも石川でもない!」
「……」
「分かったか! い・わ・さ・き・ゆ・う・す・け・やっ!」
「いわちゃきゆーちゅけ?」
「そや!」
「だれ? その人」
「こ・い・つ・や!」
「このひと、いわちゃきゆーちゅけってゆうの?」
「そや!」
「……」
藤原が何やらぶつぶつとつぶやきだした。
「えーっと、このひとがいわちゃきゆーちゅけちゃん。このおにいちゃんがやまもとけんたろーくんで、このくびがさかぐちさん!」
キラキラ瞳を輝かせ、ぶつぶつ独り言を続ける藤原を見ながら、健太郎と雄介が頭を抱えた。
半年後。戦いは終わった。数百万の犠牲を払った大阪に、少しずつ活気が戻りつつあった。事件の真相は当然、誰にも分からない。全てを理解しているのは、藤原と涼子だけ。そして二人が、それを口外する事はなかった。* * *徘徊していた数百万にも及ぶ石像たちは皆、元の姿に戻っていた。しかし坂口の言っていた、「首謀者を倒せば、呪いが解けて皆が助かる」と言う言葉は、残酷な答えとなって返っていた。確かに元の姿に戻りはしたが、脳味噌を排出した人々が再び蘇生する事はない。市内は数百万人の死体の山、ゴーストタウンと化していた。学者たちは頭を悩ませ、連日この惨劇を巡っての議論が続いた。だが誰一人として、答えにたどり着くものはいなかった。藤原は思っていた。(呪いからは解き放たれた……魂っちゅうもんがあるんやったら、みんな、安らかな眠りについた筈や……そうや、絶対そうや……)* * *雲ひとつない透き通る青空を、ベンチに座って見つめている藤原と涼子。藤原が涼子の頭を優しく撫でた。「お兄ちゃん、屁たれにだけはなりたくないね」涼
爆発が起こった。衝撃で部屋が揺れる。「なるほど……健太郎さんにしては、なかなか格好いい最後だったようですね、ふはははははははっ!」「くっ……健っ……!」素早くマガジンチェンジを行い、藤原が雄介目掛けて発砲する。その藤原の体を、雄介の鋭い視線が容赦なく切り刻んでいく。* * *その時、爆発音に妖しい眠りから覚めた涼子の視界に、雄介と戦う藤原の姿が映った。「……お……お兄ちゃん……」涼子が体に巻かれたコードを外そうとあがく。幸いにもコードは緩く締められていて、何度か試みている内に外す事が出来た。―涼子の目に、床に転がる鉈が映った。涼子が鉈を手に取り、ゆっくりと立ち上がった。「ふはははははははっ! 藤原君、そろそろお別れの時ですね! 僕を裏切った事、あの世で後悔してください!」涼子が鉈を振りかざし、雄介の後ろに立った。藤原は壁にもたれかかり、諦めきった表情で両腕をだらんと下ろした。「よりによって、屁たれのクソダコに殺られるとはな……」「死ねっ!」その時だった。「やああああああああっ!」
雄介が拳を握り締め、わなわなと肩を震わせた。レースでよく見えないが、泣いている様に見えた。そしてしばらくすると天を仰ぎ、藤原への思いを断ち切る様に笑い出した。「あっはっはっはっ!」虚しい笑い声が、室内に響く。「分かりました……僕には……僕には友達なんかいなかったと言う事ですね……じゃあ僕は何ら遠慮する事なく、この力を持って世界の頂点に登ります……やはり頂点は一人なんですね……まずは健太郎さん、あなたです……あなたには最高の舞台を用意しましょう……直美さんっ!」「何……直美ちゃん、やと……」雄介の声にバスルームの扉が開き、中から直美がゆらりと姿を現した。「直美ちゃん……無事やったんかえっ!」「待て健」身を乗り出して叫ぶ健太郎を、藤原が制した。「よお見てみい、目が死んどる」「な、直美ちゃん……」「彼女はもう、僕の忠実な下僕です。彼女の能力は素晴らしい物です。石像にしてしまうには余りにも惜しい、そう思いましてね。彼女にはその姿のまま、僕の番犬になってもらったんです。さあ直美さん! まずは健太郎さんを殺して下さい!」その声に、直美の肩がピクリと動いた。&nbs
10分後。「ええ加減にさらさんかえこのボケッ!」健太郎が藤原の後頭部を張り倒した。「ごっ……!」衝撃で目から火を出した藤原が、思わずうなる。そして静かに、大きく深呼吸すると手を挙げ、二人に言った。「すまん、ちょっとタイムや……」ポケットから煙草を取り出し、くわえて火をつける。「ふううううぅっ……」白い息を吐き、眉間に皺を寄せ、天を仰ぐ。「……よし、もう大丈夫や……いわちゃき、いや、岩崎雄介やな、分かった……」煙草を床に捨て、踏み消した。「……そやけど、岩崎雄介……そんなやつ、俺知らんぞ。訳の分からん事ぬかしやがって……それも人の事、馴れ馴れしぃ呼びくさって」「正気に戻ったかえ。そやけどちょっと待てや、その話は後や。おえ屁たれ! 先に俺が質問するっ! お前がどないして、そんな訳の分からん能力を得たんか、まずはそっからや! さあ、答えたらんかえっ!」健太郎が雄介にショットガンを向けて吠えた。健太郎の問いに、思考が停止していた雄介もようやく我に帰った。「……い、いいでしょう&
銃を構えた藤原が、部屋に足を踏み入れたその時だった。「藤原、目えつむれっ! やっぱしやつはゴーゴンの力を持っとった! 顔見たら石にされてまうぞっ!」健太郎が大声で叫んだ。「……分かった」藤原が静かにうなずき目をつむり、安眠マスクをしようとした。その時だった。「藤原君! 心配しなくていいよ! 君に危害を加える様な事は絶対にしない! する訳ないじゃない! さあ、目を開けて!」雄介の狂喜する声が響いた。「何を! 騙されるかえっ!」「……大丈夫、僕は顔にレースをかけます。そうすれば石になる事はありません。健太郎さんも大丈夫ですよ、マスクを取ってください」藤原が恐る恐る、ゆっくりと目を開けた。すると雄介の言う通り、彼は顔に黒いレースをかけていた。頭にはシュルシュルと蛇が動いているのが見える。「おい健、大丈夫や。お前も目ぇ開けろ」藤原の声に、健太郎も安眠マスクをゆっくり外した。「……」藤原には、所狭しと張られている自分の写真、散乱しているコードや倒れている涼子の姿は見えなかった。彼の目に映ったもの。それはその場に転がっている、坂口の無残な生首だった。「坂口さんも……やられたんか……」「お
13階でドアが開いた。ショットガンを突き出しながら、健太郎が素早く左右に目を這わせた。坂口は十字架を天高く掲げ、健太郎に続く。その時、またあの声が聞こえてきた。「心配ありませんよ……ここに石像はいません……いるのは僕だけです……」「くっ……こんガキ、とことん挑発してけつかる……まあええ、行ったろやないかえっ!」健太郎が吠え、大股で藤原の部屋に向かった。声の主の言う通り、石像に遭遇する事無く、二人は藤原の部屋の前に立った。健太郎と坂口が顔を見合わせ、互いにうなずく。その時、玄関のドアが静かに開いた。「坂口さん、行きまっせ!」「分かった!」二人が同時に足を踏み入れる。「な……」健太郎が我が目を疑う。そこは既に、健太郎が知る藤原の家ではなくなっていた。バスルーム以外の壁が全てなくなっており、3LDKの部屋が大きな一室になっていた。そして至る所に、藤原の写真が所狭しと貼られていた。「な……なんじゃこの部屋は……藤原、藤原だらけやないか……あいつ、こないナルシストやったんかいな&hellip